法制審議会刑法改正要綱案についての見解

100年以上ぶりの強姦罪の改正

2016年6月16日、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会で刑法改正要綱案がまとまった。今年9月の法制審総会で正式に決定され、来年の通常国会に上程される見込みである。1907年(明治40年)の現行刑法制定以来、初の強姦罪改正になる。100年以上たって、ようやく、刑法の性犯罪規定が見直されることになった。

現在の強姦罪の問題点

現在の刑法規定については、強姦の被害者が女性のみであること、強姦の定義が狭く、犯罪成立の要件(暴行脅迫)が厳しいこと、性犯罪(刑法の強姦罪、強制わいせつ罪など)は告訴しなければ起訴されない親告罪であること、親や教師、上司など、「暴行脅迫」がなくても地位関係性を利用して行われる性犯罪の処罰規定がないことなど、性暴力被害者支援団体などから、多くの問題点が指摘されてきた。

今回変えようとしているポイント

今回の刑法改正要綱案では、①性犯罪の非親告罪化、②強姦罪の性交類似行為を含む構成要件の拡大、③監護者であることによる影響力を利用した性交等の罰則の新設、④強姦罪等の法定刑の下限の引き上げ(現行の3年から5年へ)などが定められている。

日本では性犯罪の被害申告率が著しく低く(13.3%、2009年、強盗は65.6%)、性暴力被害が声をあげにくい犯罪であることがわかる。事件化するには、警察への被害届だけでなく、被害者や法定代理人などによる「告訴」が必要だが、被害者の心理的負担が大きく、被害の潜在化の要因となってきた。性暴力が重大な犯罪であることを認識する意味でも「非親告罪」化は重要だ。ただし、「非親告罪」化にあたっては、個人の意思の尊重や、刑事手続き上、プライバシーの侵害や二次被害を防止するために、被害者支援体制の整備や警察・司法関係者の偏った被害者観を是正する取り組みが必要である。

また、性犯罪規定の対象から性差をなくしたこと、性器の挿入だけではなく、「性交等」として、膣性交、肛門性交、口淫行為まで範囲を拡大したこと(刑法177条の構成要件の拡大)も被害の実態に即した改正と言える。

それでも残る今後の課題

一方、18歳未満を現に監護する者の影響力を行使した性交やわいせつ行為は、行為自体があるだけで(暴行脅迫がなくても)犯罪となるという規定の新設は、親からの性虐待被害の深刻さを考えるなら当然のことだが、なお、議論の余地がある。何といっても、適用範囲が狭すぎる。法務省の説明によると、「監護者」とは、親子関係と同一視しうる程度に、同居や生活費負担を条件とし、人格形成など生活全般で依存・保護の関係が継続していることを要するとされる。施設の職員やスポーツ指導者などは個別に判断するとしている。また、「影響力の利用」については、満18歳未満での依存・保護関係では監護者の影響力の存在は当然の前提であり、監護者からの積極的働きかけは考慮不要としている。本規定の目的が性的自由の保障にあるとするならば、親子関係にとどまらず、教師や上司などの地位関係性を利用した性行為にも適用すべきである。

配偶者からの強姦が犯罪であることの明記や強姦の構成要件である「暴行脅迫」に強制や威力の行使、不意打ちなどを付加することなど、引き続き、被害者の立場に立った刑法改正作業を行うことと、性暴力被害者支援法の早期立法化が今後の課題である。

戒能民江先生に作成いただきました。佐藤かおりの見解と相違ありません